ある朝の記憶喪失

Writer: Rie nishizaka

気味の悪いぐらい静かな朝だった。

僕は目覚めた。いつもの朝、いつもの時間に、いつものベッドの上で・・・。

横には一匹の年老いた猫。

猫の頭をひとしきり撫で、ベッドを降りてカーテンを開ける。

変わらない行動、習慣、そして変わりようのない景色。

でもなぜだろう、この言いようのない不安。

頭の中から何かがすっぽり抜け落ちしてしまったかのような・・・。

なんだか無性に気分が悪い。

疲れているのか?

おかしいな。昨日飲みすぎたわけでもないのに・・・。

昨日・・・?そういえば昨日誰と会っていた?いつ帰ってきたんだっけ?

思い出せない。頭の中に言葉の一片さえも浮かんでこない。

僕が記憶を無くすほど飲むなんてことはありえない。なぜ思い出せない。

何気に猫を見る。猫は一心に僕を見つめ声をあげる。

名前を呼ぼうとしたが出てこない。

どうかしてる・・・。ストレス性の記憶障害か?それとも頭でもぶつけたか・・・。

混乱する頭を振りながら、両手で髪の毛の中を探る。ぶつけたような痛みも腫れもない。

呆然と立ちすくむ僕。

ところで今日は何をすべきだったか。そろそろ会社に行く支度をしないと。

僕はシャワーを浴びるためにバスルームへ向う。

猫が足に擦り寄ってくる。

何気に抱き上げ、猫の首に顔を押し付けた時、ふと気がついた。

会社?会社って・・・どこだ?

猫を抱きしめたまま、思考をフル回転させる。

落ち着け。落ち着いて考えれば思い出せるはず。

どのぐらいそうしていたのか・・。

もがいて逃げようとする猫に軽く爪をたてられ我に返った。

覚えていないのは昨日のことだけじゃない・・・。

力が抜けて床に座り込む。

僕は・・・・・誰だ・・・・・?

そう。僕の頭の中から抜け落ちてしまったものは、まぎれもない「僕自身の記憶」だった。

つづく・・・・


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